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サーガディアンリズム(概日リズム)とは、人がもつ体内リズムで、体温変化、ホルモン分泌、睡眠・覚醒など、一日の中で大きく変化する現象のほとんどに関わっています。
おおよそ 24.5 時間周期のリズムで、このリズムは、時計遺伝子(Clock gene)と呼ばれる一群の遺伝子によってコントロールされています。
サーガディアンリズムが乱れると、睡眠と覚醒のサイクルが狂い、寝不足、睡眠の質の低下、不眠症などを引き起こします。
そして、サーガディアンリズムを司る時計遺伝子は腸にも存在し、サーガディアンリズムと腸内細菌が深くかかわっていることもわかってきています。
少し前に、とある乳酸菌飲料が〝睡眠の質を向上させる〟としてブームになりましたが、なぜ、乳酸菌飲料が睡眠の質に関係するかも含め、サーガディアンリズムと腸内細菌の関係を少しお話しします。
最初に、一つの興味ある研究をご紹介します。
マウスによる研究ですが、腸内細菌を無くした無菌マウスでは、時計遺伝子の発現が低下し、サーガディアンリズムも減弱することが確認されています。
通常のマウスでは、深夜 2時ごろに時計遺伝子の発現量がピークとなり、明け方から昼にかけて減少して行き、午後から発現量が上昇に転じて行きます。
一方、腸内細菌を無くした無菌マウスでは、同様な傾向は示すものの時計遺伝子の発現量は明らかに低いことが確認されています。関連する遺伝子の発現量も無菌マウスでは明らかに低いことが確認されています。
このことから、腸内細菌が時計遺伝子に関与していると考えられています。
また、一日の中で、腸内細菌叢の構成が変化することがわかっています。これを、腸内細菌叢の日内変動と呼びます。
ある研究では、マウスにおいて、ラクノスピラ属菌が日中に減少し、夜間に増加することが報告されています。逆に、バクテロイデス属菌やブレイディア属菌では、日中に増加し夜間に減少すること、そして、人為的に時計遺伝子を壊したマウスでは、ほぼ変動しなかったことが報告されています。
マウスによる実験結果
同様に、ヒトにおいても、バクテロイデス属菌は夜中から明け方にかけて増加し昼頃ピークとなり、午後から減少に転じ夜中に最も少なくなることが報告されています。最大時(2.0 %)と最小時(0.5 %)の相対占有率では 1.5 % の差があったことも報告されています。
ヒトによる実験結果(バクテロイデス属菌)
つまり、サーガディアンリズムが適切に機能するためには腸内細菌が無くてはならない存在であり、睡眠の質や睡眠そのものに腸内細菌が重大な影響を及ぼしていることがわかっているのです。
では、何が、腸内細菌と時計遺伝子の相互関係に影響を与えているのでしょうか?
その答えは、「短鎖脂肪酸」です。
ある試験により、腸内細菌が作る短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)が、腸のサーガディアンリズムの調節に関与していることが示されています。同様に、胆汁酸が腸内細菌によって代謝された化合物が時計遺伝子の発現に関与している可能性も示されています。
そして、短鎖脂肪酸が、GABA(ギャバ)の増加やオレキシンの減少、ヒスタミンの増減などの神経応答、メラトニン受容体1活性化などの内分泌応答、各種サイトカインの増減などの免疫応答などに関与し、これら化合物の全身循環や迷走神経の刺激により、サーガディアンリズムが正常に機能し、良質な睡眠の促進につながっていることが示されています。
つまり、短鎖脂肪酸が神経・ホルモン・免疫などさまざまな反応に関与し、全身をめぐったり迷走神経を刺激したりすることで、体内時計を整え、良質な睡眠の維持につながっていると考えられます。

また、短鎖脂肪酸の産生には、腸内細菌同士の〝連携〟も重要です。
たとえば、納豆菌のような一部の菌は、デンプンなどの炭水化物を分解し、食物繊維やオリゴ糖といった成分を生み出します。これらは、乳酸菌やビフィズス菌のエサとなり、乳酸や酢酸などの有機酸の産生へとつながります。そして、作られた乳酸は腸内細菌の働きで短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)へと変化します。
このように、腸内では複数の菌が役割を分担しながら働くことで、短鎖脂肪酸が効率よく生み出され、サーガディアンリズムや睡眠の質の維持に寄与していると考えられます。

短鎖脂肪酸の元となる食物繊維やオリゴ糖が不足すると、充分な量の短鎖脂肪酸が産生・供給されず、サーガディアンリズムが乱れ、良質な睡眠や健康な身体を維持することが困難となります。
食物繊維やオリゴ糖の不足が継続すると、腸の細胞間の隙間から物質が漏れるのを防ぐバリア機能「タイトジャンクション機能」が低下します。その結果脳腸相関の完全性が維持されなくなったり、リーキーガット状態(腸のバリア機能の低下)が起こりやすくなります。
すると、LPS(脂質と多糖が結合した化合物で、慢性炎症の原因物質の一つ)が体内に漏れ、炎症性サイトカインが増加します。これに伴い脳内ストレスの増加が慢性化し、寝不足や睡眠の質の低下を招き、さらに肥満などの生活習慣病の誘発やさまざまな疾病の原因につながっていくと考えられています。
このような悪循環を防ぐためにも、短鎖脂肪酸を不足しないよう、日頃から食物繊維やオリゴ糖を意識して摂取し、腸内細菌がしっかり働ける環境を整えることが大切です。毎日の食事を通して腸内環境を支え、体内リズムと睡眠の質を守る生活を心がけましょう。
適切な睡眠時間と良質な睡眠は、心身の健康を維持するうえで欠かせないものです。
発酵食品(プロバイオティクス)や食物繊維・オリゴ糖(プレバイオティクス)を積極的に摂取し、腸内細菌が活躍できる環境を整え(ポストバイオティクス)循環させる日々を過ごし、健康を維持して頂けることを願っています。
参考文献
1) 青江誠一郎 : 睡眠調節およびストレス応答における発酵性食物繊維およびプロバイオティクスの役割 ~最新研究の紹介~,AIFNオープンカレッジ 最新研究で知る腸内革命の今(睡眠、ストレス編)資料 (2026)
2) V. Leone et al. Effects of Diurnal Variation of Gut Microbes and High-Fat Feeding on Host Circadian Clock Function and Metabolism, Cell Host Microbe. 2015; 17(5): 681-689.
3) C. A. Thaiss et al. Transkingdom Control of Microbiota Diunal Oscillations Promotes Metabolic Homeostasis, Cell 159, 514-529, October 23. 2014
4) Y. Tahara et al. Gut Microbiota-Derived Short Chain Fatty Acids Induce Circadian Clock Entrainment in Mouse Peripheral Tissue, Sci. Rep. (2018) 8:1395, DOI:10.1038/s41598-o18-19836-7
5) J. E. Haarhuis et al. Probiotics, prebiotics and postbiotics for better sleep quality: a narrative review, Beneficial Microbes, 2022; 13(03): 169-182

小笠原 和也
そのもの株式会社学術顧問/元九州大学大学院 農学研究院 特任准教授
熊本大学大学院医学教育部卒。 ナットウキナーゼをはじめとする機能性⾷品原料の研究開発、 39年間にわたる納⾖菌を主とする微⽣物学・醗酵学・酵素学の研究開発の経験をもとに幅広く活躍中。

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