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大豆に含まれるレシチンは、健脳素材として古くから健康食品原料として使用されています。
丸大豆から作られる納豆にもレシチンは含まれていることや、腸内環境を整え、心身の健康に寄与する効果が報告されていることから、納豆の摂取が軽度認知症障害(MCI)や抑うつ症の予防につながる可能性が期待されています。
一方で、これまでの研究では結果が一致していません。
なお、男性を含む高齢者グループにおけるうつ病と納豆摂取に関する報告はありません。
今回ご紹介するのは、鹿児島大学と、納豆や食酢を販売している(株)Mizkan(ミツカン)の共同研究で、Nutrition Research 誌で 2026年 4月に報告された論文です。
当該論文では、納豆を習慣的に摂取する群(週2~3回以上)では、摂取しない群と比較して軽度認知症障害(MCI)および抑うつ症状の発症が約 37 % 低い結果であったと報告されています。

高齢者人口は世界的に急速に増加しており、軽度認知障害(MCI)やうつ病などの健康問題は、加齢とともにますます重要になってきています。
MCIとは、通常の加齢に伴う認知機能低下を超えた機能低下の状態であり、認知症の前段階と考えられています。
また、抑うつとは、「気分が落ち込んで何にもする気になれない」、「憂鬱な気分」などの心の状態が強くなり、様々な精神症状や身体症状がみられる症状を指します。抑うつ状態が見られる疾患には、うつ病や躁うつ病、抑うつ神経症などがあります。
さらに、うつ症状は軽度認知障害(MCI)のリスクを高め、認知症への進行を促進し、認知機能障害のさまざまな段階に影響を与えます。これらのことから、軽度認知障害(MCI)とうつ症状の両方の改善が重要と考えられています。

本研究は、2019年垂水コホート研究のデータを使用した横断研究です。垂水コホートは、鹿児島県垂水市に居住する40歳以上の男女を対象とした健康診断調査です。
2019年6月から12月にかけて、垂水コホート研究に合計1,024人が登録されました。1,024人の参加者のうち、65歳以上の687人が特定され、最終的な研究対象集団は616人となっています。
参加者の病歴は、簡略化された自己記入式食事歴質問票(BDHQ)を使用して取得されました。
除外対象には、
などが含まれています。
納豆の摂取頻度については、
の7つの選択肢から1つを選び、このうち、
に分類されました。
味噌汁、豆腐、あげについても同様の基準が適用され、
に分類されました。
結果として、参加者616名のうち、133名(21.6%)が軽度認知障害(MCI)を、125名(20.3%)が抑うつ症状を呈していたと報告されています。
軽度認知障害(MCI)群では、納豆の摂取習慣と負の相関関係にあることが示され、納豆を習慣的に摂取する群では、摂取しない群と比較してMCIの発症が約 37 % 低い結果であったと報告されています。
抑うつ症状群においても、納豆の摂取習慣と負の相関関係にあることが示され、納豆を習慣的に摂取する群では、摂取しない群と比較して抑うつ症状の発症が約 37 % 低い結果であったと報告されています。
本研究では、MCIとの関連とうつ症状との関連で、男女に異なる傾向が確認されました。
MCIについては、納豆摂取習慣は男性では有意な負の相関を示した一方、女性では有意な関連は認められませんでした。
一方、抑うつ症状ではこれとは逆の傾向がみられ、女性では納豆摂取習慣と有意な負の相関が認められたものの、男性では有意な関連は認められませんでした。
| 評価項目 | 全体 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|---|
| MCI(軽度認知障害) | 納豆摂取習慣で発症割合が約37%低い | 有意な負の相関あり(納豆摂取が多いほどMCI発症が低い) | 有意な関連なし |
| 抑うつ症状 | 納豆摂取習慣で発症割合が約37%低い | 有意な関連なし | 有意な負の相関あり(納豆摂取が多いほど抑うつ症状が少ない) |

従来の研究では結果にバラツキがあり、納豆の摂取自体がヒトのMCIや抑うつを改善するかどうかは不明でした。これらの原因として、納豆は、日本全国で消費されている伝統的な発酵食品ですが、その消費量は地域によって大きく異なり、最大で3倍の差がある点が指摘されています。
納豆の摂取習慣を調整することで、一貫した結果が得られる可能性があると著者らは述べています。
厚生労働省の2019年調査によると、垂水市は日本で4番目に納豆消費量が多い地域であると報告されています。そのため、この地域とコホート研究が用いられたようです。
従来までに二つの先行研究が報告されており、これらの研究のうち一つでは、納豆の平均摂取量は男性で 10.4 ± 14.7 g/日、女性で 8.4 ± 12.1 g/日であり、もう一方の研究では、参加者全員の納豆摂取量の平均値や中央値が報告されていませんでした。
今回の研究で、BDHQ指標を用いた計算では平均納豆摂取量は 20.7 ± 19.5 g/日であり、これは以前の研究よりも多い可能性があると報告されています。
なお、2019年の厚生労働省の調査結果によると、納豆摂取量の全国平均は 9.0 ± 18.3 g/日とのことです。本研究の参加者は、全国平均の納豆摂取量より多く摂取していたことが示唆されます。
これらのことから、
「本研究で観察された食習慣とMCIの相関関係に寄与している可能性のある要因の1つは、納豆摂取頻度の高さである。」
と著者らは述べています。
簡単にまとめると、先行研究及び全国平均では、1日の摂取量が 20 ~ 27 g(半パック)であるのに対し、今回の研究対象者は、1日の摂取量が 40 g(1パック)であり、この違いが研究結果に影響していると考えられています。
また、週2~3回以上納豆を摂取する人では、MCIおよび抑うつ症状の発症が約 37 % 低い結果が示されたということになります。

これまでにも、納豆と認知機能に関する研究はいくつか報告されています。
同様な先行研究として、介護を必要とする認知症と納豆の摂取習慣との関連性を調査した縦断研究の一つで、納豆の摂取が認知症のリスクを低下させることが報告されています。
また、別の研究では、リスクの低下は60歳未満の女性でのみ観察されています。しかしながら、他の大豆製品(味噌、豆腐など)では認知症リスクとの関連性は観察されていません。
これらの先行研究をふまえ、今回の研究の著者らは、納豆菌が生成する成分など、大豆由来成分以外の因子が、納豆摂取と認知機能障害リスクの低下との関連性に関与している可能性を指摘しています。
著者らは、次の機能性成分の可能性を指摘しています。
さらに、納豆の摂取による腸内環境の維持効果も指摘されています。
加齢に伴う腸内細菌叢の変化は、腸管バリア機能を損ない、全身性の低度慢性炎症を引き起こし、炎症性サイトカインの増加や免疫細胞の活性化を介して、神経炎症や認知機能低下、およびうつ症状の進行に関与することが報告されています。
その他にも、
などが報告されています。
このことから、納豆の摂取は抗炎症シグナル伝達の活性化、および腸管バリア機能の強化を介して、全身性炎症を抑制し、習慣的に納豆を摂取する人のうつ症状およびMCIの予防に貢献する可能性があることを指摘しています。
これらの内のどれか、あるいは複合的な効果として、MCI および抑うつ症状を予防する可能性が示されています。
ただし、著者らは、前述したように、MCI群および抑うつ症状群でそれぞれ性差が認められはしたが、「各性別層におけるMCIおよびうつ病症例の数が限られていることを考慮すると、これらの性別層別化された結果は慎重に解釈する必要がある」と述べており、結論を出すには、さらに大規模な介入試験が必要と判断しています。
また、本研究は「横断研究」と呼ばれる研究で、参加者の食習慣や健康状態を同じ時点で調査し、その関連性を分析しています。そのため、「納豆を食べたことがMCIや抑うつ症状の予防につながった」といった因果関係を証明するものではなく、「関連がみられた」ことを示した研究です。そのため、観察された関連性の時間的方向性を特定することはできず、因果関係を推論することもできません。
例えば、
など、いくつかの限界があることも指摘しています。
今回の研究では、
週2~3回以上納豆を食べる習慣がある高齢者では、MCIおよび抑うつ症状の発症割合がおよそ37%低い
ことが示されました。
ただし、本研究は横断研究であり、「納豆を食べることでMCIや抑うつ症状を予防できる」と因果関係を証明したものではありません。
さらなる研究の余地は残っているものの、著者らは、「食事介入は日常生活に容易に取り入れることができるため、納豆がMCIとうつ症状の両方のリスクを軽減できるのであれば、特別な施設や環境を必要とせずに推奨および消費することができ、大きな社会的影響をもたらす可能性がある。」とまとめています。
まだまだ新しい発見が続く納豆。そして明らかになる納豆・納豆菌の力。今後も益々期待が持てます。今度は、どの様な科学的エビデンスが示されるのか、ワクワクが止まりません。
参考文献
1) A. Haidar et al., Association Between Ultraprocessed Food Consumption and Cardiovascular Disease Risk JACC Adv. 2026;5:102516
2) The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis ホームページ
https://mesa-nhlbi.org/1) Y. Araki et al. Habitual natto consumption is inversely associated with mild cognitive impairment and depressive symptoms in older Japanese adults: A cross-sectional study, Nut Res, 150, 174-183 (2026)
https://doi.org/10.1016/j.nutres.2026.04.009
2) 抑うつ 健康長寿ネット:公益財団法人 長寿科学振興財団
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/yoku-utsu.html

小笠原 和也
そのもの株式会社学術顧問/元九州大学大学院 農学研究院 特任准教授
熊本大学大学院医学教育部卒。 ナットウキナーゼをはじめとする機能性⾷品原料の研究開発、 39年間にわたる納⾖菌を主とする微⽣物学・醗酵学・酵素学の研究開発の経験をもとに幅広く活躍中。

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