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短鎖脂肪酸の働きとは?酢酸・酪酸・プロピオン酸と最新のプレバイオティクス

短鎖脂肪酸(SCFA : Short-chain Fatty Acids)という名前を聞いたことがある方も多いかと思います。近年注目されている成分で、腸内細菌によって生産される成分の一つです。

短鎖脂肪酸には、主に「酢酸」「酪酸」「プロピオン酸」の3種類があります。腸内細菌が、食物繊維やオリゴ糖を食べてこれらを産生します。

今回は、短鎖脂肪酸の種類や働き、そして近年注目されている「イヌリン-プロピオン酸エステル(IPE)」について解説します。

目次

短鎖脂肪酸とは?

短鎖脂肪酸とは、腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖などを利用して作り出す成分のことです。代表的なものとして、次の3種類があります。

  • 酢酸
  • 酪酸
  • プロピオン酸

酢酸を作る菌を「酢酸菌」、酪酸を作る菌を「酪酸菌」、プロピオン酸を作る菌を「プロピオン酸菌」と呼びます。

では、それぞれどのような働きをするのでしょうか?

短鎖脂肪酸の主な働き

短鎖脂肪酸の主な働きは、次の通りです。

1.腸内の pH 調整

腸内の pH を弱酸性にし、悪玉菌が増え難く、善玉菌が元気になる環境を整えます。

2.腸管バリアの維持

大腸のタイトジャンクション(細胞結合)を維持し、リーキーガットを防ぎます。リーキーガットとは、腸内の有害成分が血液中に漏れ出す現象です。

3.免疫機能の調節

過剰な免疫反応を抑制し、炎症やアレルギー反応を抑える働きをします。

このように、短鎖脂肪酸は腸内だけでなく、全身の健康にも関わる重要な代謝産物と考えられています。

酢酸・酪酸・プロピオン酸、それぞれの働き

短鎖脂肪酸は「酢酸」「酪酸」「プロピオン酸」の3種類に大きく分けられます。3種類の短鎖脂肪酸はそれぞれに異なる働きをします。それぞれの働きは、次の通りです。

酢酸

酢酸は、腸内を弱酸性に保ちます。ヒト自身のエネルギー源にもなります。血液に吸収された後、全身に運ばれ、エネルギー代謝や脂質合成に関与します。腸内で作られる短鎖脂肪酸の約 60 % を占めます。

酪酸

酪酸は、大腸のエネルギー源となります。大腸上皮細胞のエネルギーの約 70 % を供給しているとも言われています。また、腸管バリアの維持、制御系免疫細胞に働き免疫のバランス維持に寄与しています。腸内で作られる短鎖脂肪酸の約 15 % を占めます。

プロピオン酸

プロピオン酸は、腸内で産生された後、肝臓に運ばれ、グルコース合成やコレステロール合成に寄与します。グルコース(ブドウ糖)は、ヒトの基本的なエネルギー源です。また、脂質代謝にも関与し、過剰な脂肪の蓄積を抑制します。腸内で作られる短鎖脂肪酸の約 25 % を占めます。

まとめ

種類主な働き
酢酸腸内環境の酸性化、エネルギー代謝などに関与
酪酸大腸上皮細胞のエネルギー源、腸管バリアや免疫機能に関与
プロピオン酸糖・脂質代謝、食欲調節などに関与

短鎖脂肪酸はどのように作られる?

短鎖脂肪酸は、それぞれ単独で作られるわけではありません。腸内では、さまざまな細菌が協力しながら、食物繊維やオリゴ糖などを分解・代謝しています。

例えば、乳酸菌やビフィズス菌などの腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖を食べ、乳酸や酢酸が産生されます。

乳酸や酢酸はさらに代謝され酪酸となり、酪酸がさらに代謝されてプロピオン酸となります。プロピオン酸は、他の短鎖脂肪酸には代謝されません。

このように、腸内細菌同士の代謝のつながりによって、さまざまな短鎖脂肪酸が作られています。

プロピオン酸と食欲・体脂肪の関係

3種類の短鎖脂肪酸の中でも、プロピオン酸は近年特に注目されています。その理由の一つが、食欲やエネルギー代謝との関係です。

最終産物であるプロピオン酸は、先に述べたように、グルコースの合成や過剰な脂肪の蓄積抑制などの働きがあり注目されています。

マウスによる実験では、プロピオン酸が多いと体脂肪が少なくなることが確認されています。

プロピオン酸は、大腸から「GLP-1 」と「PYY」というホルモンを放出する働きを活性化させることがわかっています。 「GLP-1」と「PYY」 は食欲を抑制するホルモンです。

また、脂肪細胞からレプチンを放出させる働きもあります。レプチンも食欲を抑制する働きがあります。

こうした研究を見ると、「プロピオン酸を含む短鎖脂肪酸を摂ればダイエットにつながるのでは?」と期待されます。が・・・残念なことに、そうはなりません。

短鎖脂肪酸を直接摂っても大腸には届きにくい

食事成分として摂った短鎖脂肪酸は小腸で速やかに全て吸収されてしまい、大腸まで届きません。大腸内で腸内細菌に頑張って作ってもらうほかないようです。

つまり、短鎖脂肪酸そのものを摂取するのではなく、「腸内細菌が短鎖脂肪酸を作りやすい環境を整える」という考え方が重要です。

そこで注目されているのが、プレバイオティクスです。

プレバイオティクスとは?

プレバイオティクスとは、腸内細菌によって利用されることで、健康に良い影響をもたらす食品成分などを指します。代表的なものとして、食物繊維やオリゴ糖などがあります。

これらを腸内細菌が利用することで、短鎖脂肪酸などの代謝産物が作られます。

つまり、プレバイオティクスは「腸内細菌のエサ」となることで、腸内環境をサポートするものと考えることができます。

最新のプレバイオティクス「イヌリン-プロピオン酸エステル(IPE)」

最近、興味深いサプリメントがヨーロッパでノーベルフードとして認可されました。ノーベルフードは、新規な食品で安全性が確認されたものになります。

その食品は、「イヌリン-プロピオン酸エステル(IPE)」です。

IPE は、イギリスの研究チームにより開発された食品で、水溶性食物繊維である「イヌリン」に、「プロピオン酸」を結合させたものです。

イヌリンとは?

イヌリンは、菊芋、チコリなどの植物(野菜)に含まれる水溶性食物繊維で、ビフィズス菌を増やす効果、血糖値上昇抑制効果、ダイエット効果などが期待されています。

イヌリンは胃や小腸で分解・吸収されず、大腸へ届きます。

IPEはどのように働く?

IPE もイヌリンと同様に大腸へ届きます。大腸に棲む腸内細菌の働きでイヌリンが分解され、プロピオン酸が供給される形となります。

IPEの研究で報告されたこと

IPE による効果も、イギリスの研究チームにより確認されています。

40 ~ 60歳の過体重被験者 60名を対象とした試験で、1日に 10 g の IPE 摂取が、血中の GLP-1 と PYY を増加させ、食事量と体重増加を抑制できたことが報告されています。

本試験で、IPE 摂取期間は 6ヶ月間であり、摂取前に比較して 5 % 以上の体重増加は認められませんでした。なお、イヌリンのみ摂取の場合、17 % の被験者に 5 % 以上の体重増加が確認されています。

短鎖脂肪酸を増やすには?

現状で、大腸中の短鎖脂肪酸を増やすには、食物繊維や発酵食品をバランスよく摂り、腸内細菌叢を善玉菌優勢にするしかありません。

今後は、目的とする善玉菌を有意に増加させるプロバイオティクス法や、IPEのようなサプリメントの摂取や開発、目的とする善玉菌を生きて大腸へ送り届けるカプセルやサプリメントの開発などが期待されます。

ホールフードや伝統的な発酵食品、バランスの取れた食生活で健康を維持するのが基本ですが、必要に応じて、最新の科学技術により開発されたサプリメントの活用も一つの方法かもしれません。

参考文献

1) 坂田隆,市川宏文.短鎖脂肪酸の生理活性,日本油化学会誌, 46 (10), 143-150 (1997)
2) H. Shimizu, et al. Regulation of host energy metabolism by gut microbiota-derived short-chain fatty acids, Glycative Stress Research, 6 (3), 181-191 (2019)
3) V. K. Didaura et al. Gut Microbiota from Twins Discordant for Obesity Modulate Metabolism in Mice, Science, 6 Sep 2013
  DOI:10.1126/science.1241214
4) Commission Implementing Regulation (EU) 2026/1219 of 9 June 2026 authorising the placing on the market of inulin-propionate ester as a novel food and amending Implementing Regulation (EU) 2017/2470/European Union
5) E. S. Chambers, et al. Effect of targeted delivery of propionate to the human colon on appetite regulation, body weight maintenance and adiposity in overweight adults, Gut, 64, 1744-1754 (2015)
   DOI:10.1136/gutjnl-2014-307913
この記事の監修者
納豆博士|小笠原 和也 そのもの株式会社学術顧問・九州大学大学院 農学研究院 特任准教授

小笠原 和也

そのもの株式会社学術顧問/元九州大学大学院 農学研究院 特任准教授

熊本大学大学院医学教育部卒。 ナットウキナーゼをはじめとする機能性⾷品原料の研究開発、 39年間にわたる納⾖菌を主とする微⽣物学・醗酵学・酵素学の研究開発の経験をもとに幅広く活躍中。

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