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腸内細菌の多様性低下は自己免疫疾患に関与する?腸内環境と免疫の関係を解説

ヒトの腸内には免疫機能(免疫細胞や抗体)の 6 ~ 7割が存在しています。腸内環境が乱れると悪玉菌が増え、免疫力が低下し、さまざまな体調不良などを引き起こすといわれています。

また、腸内環境が乱れた状態が長期間続くと、免疫力の低下だけでなく暴走も起こり、その結果、さまざまな病気やアレルギー症状の発症、さらには、うつなどの精神疾患にもつながるといわれています。

では、腸内細菌の多様性が低下すると、自己免疫疾患にはどのような影響があるのでしょうか。

2025年に発表されたシステマティックレビューでは、自己免疫疾患と腸内細菌叢の関係について、これまでの研究結果がまとめられました。ここでは、その研究をもとに、腸内細菌と免疫、そして自己免疫疾患との関係についてわかりやすく解説します。

目次

自己免疫疾患とは?

免疫には、細菌やウイルスなどから体を守る働きがあります。通常、免疫細胞は自分自身の正常な細胞と異物を見分け、自分の体を攻撃しないように調節されています。

ところが、何らかの原因でこの仕組みがうまく働かなくなると、免疫細胞が自分自身の正常な細胞や組織を攻撃してしまうことがあります。このように免疫が暴走を起こすと、花粉症やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどのアレルギー症状や、自己免疫疾患を引き起こします。

自己免疫疾患は、遺伝、環境、マイクロバイオーム(微生物叢)などの複雑な相互作用の影響を受けることで生じます。

代表的な自己免疫疾患として、

  • 関節リウマチ
  • 炎症性腸疾患(IBD)
  • バセドウ病
  • 橋本病
  • 全身性エリテマトーデス

などがあります。

本論文において、マイクロバイオームとは、人体中(腸管内、口腔内、表皮・皮膚など)にいるすべての微生物(細菌、真菌・ウイルスなど)の集まりと、それらが持つすべての遺伝子情報(ゲノム)の総体を指します。

自己免疫疾患と腸内細菌の関係を調べた研究

では、実際に自己免疫疾患のある人では、腸内細菌にどのような変化が見られるのでしょうか。

アリエル大学(イスラエル)の Mohammad Adawi は、自己免疫疾患と腸内細菌の関係性についてのシステマティックレビューとメタ解析を行い、その結果が、Frontiers in Microbiomes 誌に掲載されました。

システマティックレビューは、一定の基準などを基に質の高い臨床研究(論文)を調査し、結果を適切に分析し統合を行う学術であり、メタ解析は、過去に行われた複数の研究結果を統合するための統計解析法です。

研究ではどのような分析が行われた?

本研究(レビュー)では、甲状腺および腸管などに関連する疾患を対象として、査読付き論文を様々なデータベースから抽出しています。そして、免疫学、免疫療法、マイクロバイオーム、自己免疫、炎症、およびアレルギーの各分野を対象に、重点的な検索を実施し、解析が行われています。

著者は、

本レビューの主たる目的は、自己免疫疾患におけるマイクロバイオーム(微生物叢)に関する既存のマッピング研究を包括的に概観することにあります。これにより、各研究間の関係性を確立し、共通の傾向を見出すことで、最終的には「自己免疫疾患に対するマイクロバイオームの影響」と「自己免疫疾患がマイクロバイオームに及ぼす影響」という双方の動向を説明可能にすることを目指します。

と述べています。

自己免疫疾患では腸内細菌の多様性が低下している?

本研究の結果、自己免疫疾患全般にわたって、腸内細菌の多様性に低下が確認されました。

また、腸内細菌叢の変化は腸管免疫系の調節機能に直接的な影響を与え、自己免疫疾患の進行に寄与していることが明らかとなりました。

本研究で、自己免疫疾患や炎症性疾患に関連する腸内細菌叢のディスバイオシス(菌叢バランスの乱れ)に関するいくつかの新たな考察を行った結果から、自己免疫疾患には、特定の分類群や遺伝子の濃縮(増加)といった共通の特徴が見られることが示されました。

また、大部分の研究において、検討されたすべての主要な免疫介在性疾患でマイクロバイオームの多様性の低下が報告されていました。

自己免疫疾患はどのように発症する?

自己免疫疾患の発症に関与する機序は、多くの場合、T細胞を介した自己攻撃による生体組織の損傷を特徴としています。

疾患発症の自然経過には、いくつかの明確な段階が存在します。

第一に、感受性を持つ個体の免疫系が、様々なトリガーへの曝露によって自己抗原に対して感作されます。

第二に、抗原特異的かつ自己反応性のT細胞が環境要因によるトリガーで活性化されることで、疾患は臨床的に無症状の段階へと移行します。

最後に、疾患に至る自己免疫反応が現れ、進行します。

免疫細胞による自己寛容(自分自身を攻撃しない反応)を破綻させる自己抗原の活性化を引き起こすトリガーは、相互に関連し合う遺伝的要因と環境要因に分類されています。

そして、遺伝的素因は、自己攻撃を行う免疫細胞が休止状態に入り、その特性が次の世代に受け継がれ、再び、末梢における制御機構の破綻が疾患の発症を誘発する可能性が示されています。

腸内細菌叢と自己免疫疾患はどのように関係している?

消化管マイクロバイオーム(腸内細菌叢)と自己免疫の関係は、一方向ではなく、お互いに影響し合っている可能性があります。

これまでの研究では、ヒトのマイクロバイオーム(微生物叢)は、遺伝的要因だけでなく、食事や生活環境(薬剤による変化を含む)など、さまざまな影響を受けることがわかっています。

例えば、食事や環境曝露(ペットとの同居や居住地域など)が、健康時および疾患時におけるヒトの微生物叢や免疫系に及ぼす影響については、詳細に解明されています。

一方で、腸内にすむ共生微生物も、私たちの免疫系に影響を与えています。

共生微生物は、自然免疫におけるパターン認識受容体の働きや、制御性T細胞(Treg)などの免疫抑制細胞の発動維持、そして感染に対する防御などを通じて、免疫系の発達や維持に不可欠な役割を果たしています。

つまり、腸内細菌と免疫系は、互いに影響しながらバランスを保っていると考えられています。

腸内細菌は免疫反応を調節している

病原体などに感染した際、マイクロバイオーム(微生物叢)と免疫系との間には、さまざまな相互作用が生じることが報告されています。

例えば、乳酸菌が産生する乳酸には、免疫抑制作用があります。

また、微生物が作り出すの特定の物質(リガンド)は、抗原提示細胞(APC)に影響を及ぼし、T細胞の一種であるTh細胞の活性化を促進することで、微生物やウイルスへの免疫反応を引き起こします。

このように、腸内細菌は免疫反応を「弱める」だけでなく、「適切に働かせる」役割も担っています。さらに、ウイルス、細菌、真菌、原虫の構成成分は、自己免疫反応を増大させる可能性があります。

その結果、免疫系においては、常在菌に対する自然免疫応答および獲得免疫応答と並行して、免疫病理学的障害の誘発を回避するための制御機構が誘導されるという平衡状態が保たれています。

腸内細菌は遺伝子の働きにも影響する

常在菌によるリンパ系への刺激では、炎症や恒常性(ホメオスタシス)に影響を及ぼすとされています。

また、微生物は、TLRやNOD2といった免疫応答を制御する遺伝子に対してエピジェネティックな影響を及ぼします。エピジェネティックとは、DNA配列に変化を与えることなく、遺伝子の発現の ON-OFF を制御する仕組みです。

つまり、腸内細菌は免疫細胞そのものだけでなく、免疫に関わる遺伝子の働きにも影響する可能性があります。

短鎖脂肪酸も免疫に関わっている

また、一部の細菌は短鎖脂肪酸(SCFA)を産生します。短鎖脂肪酸には、酢酸、プロピオン酸、酪酸などがあり、免疫系におけるシグナル伝達を調節する働きがあります。

そのため、腸内細菌の種類やバランスが変化すると、こうした物質の産生にも変化が生じ、炎症や宿主(ヒト)の適応に重要な影響を与えます。

腸内細菌叢の乱れは自己免疫疾患にどう影響する?

さらに、間接的な影響として、腸内細菌叢のディスバイオシス(菌叢バランスの乱れ)だけでなく、口腔内細菌叢の乱れも、自己免疫疾患の発症に関与する重要な要因であることが示唆されています。

マイクロバイオーム(微生物叢)は自然免疫系と獲得免疫系の両方に影響を与えるため、自己免疫疾患に対するマイクロバイオームの間接的な影響もしばしば認められます。

特に重要なのが、腸管のバリア機能と免疫の関係です。

本来、腸管が外部環境由来の抗原にさらされた場合、体に害を与えないよう、不活化を伴う粘膜免疫応答、あるいは免疫寛容が誘導されるはずです。

しかし、腸内細菌叢のバランスが崩れたり、粘膜バリア機能が損なわれたりすると、侵入した抗原が炎症を起こしやすい形で粘膜免疫系と接触してしまうことがあります。

こうした機能不全な状態が続くと、局所的な反応だけでなく、全身性の免疫応答が誘発されることがあります。その結果、病原性を持つ免疫細胞が活性化し、自己免疫疾患の発症につながる可能性があります。

Th17細胞が自己免疫疾患に関係する?

本レビューで、腸内細菌叢とさまざまな自己免疫疾患との間にある潜在的な関連性を探った結果、細菌叢全体や特定の構成菌を変化させることで、こうした関連性が明らかになることを示す実験的証拠が得られました。

その中で、重要な役割を果たす粘膜病原性細胞として、Tヘルパー17細胞(Th17細胞)の一群が特定されました。

Th17細胞は免疫反応や炎症に関係するT細胞の一種で、その存在量は疾患の重症度と正の相関を示すことが報告されています。

つまり、腸内細菌叢の変化、免疫反応、炎症、自己免疫疾患は、それぞれが独立しているのではなく、互いに関係し合っている可能性があります。

腸内環境の改善は自己免疫疾患の対策になる?

こうした研究結果から、自己免疫疾患を改善するための方法として、腸内環境を整え、腸の健康を保つことが有効である可能性も注目されています。

著者は、そのためには、以下のような要素が重要になる可能性があると述べています。

  • 食事
  • 生活環境
  • 衛生状態
  • 腸の健康を促進するプロバイオティクスの経口摂取
  • 生活習慣の改善

また、本レビューでは、自己免疫疾患とマイクロバイオームとの関連が、今後の臨床診療にも重要な示唆を与える可能性について述べられています。

プロバイオティクス療法の可能性が注目されている

多発性硬化症(MS)、ループス、関節リウマチなどの疾患では、T細胞療法や幹細胞療法といった治療法が一部の国で用いられていますが、死亡を含む重篤な副作用のリスクを伴う可能性があります。

一方、プロバイオティクス療法は、MS、ループス、関節リウマチなどの疾患に対する新たな治療アプローチとして期待されています。

プロバイオティクス療法は、健康に有益で、比較的低コストであることから、個人の健康増進にも役立つ可能性があります。

感染症の低減、肥満対策、炎症性腸疾患の治療などにおいて、重大な副作用を伴うことなく良好な成績が得られていることも報告されています。

さらに、プレバイオティクス、プロバイオティクス、糞便微生物叢移植、シンバイオティクスといった微生物叢を標的とする治療法に加え、新規の難消化性炭水化物、多価不飽和脂肪酸、ポストバイオティクス(短鎖脂肪酸、メラトニン、インドール誘導体など)や、メタバイオティクスと呼ばれるさまざまな栄養成分の摂取についても研究されています。

これらは、自己免疫疾患に対する魅力的な治療戦略の一つとして注目されています。

腸内細菌は、子どもの免疫の「教育」にも関わっている

ヒトの免疫系の発達は、遺伝的要因と環境的要因の両方の影響を受けます。そして、腸内をはじめとする微生物叢が免疫系の「教育」に寄与していることが示唆されています。

出生時の免疫系はまだ十分に成熟しておらず、免疫担当細胞の形成や、免疫反応を抑える「免疫寛容」と、免疫を活性化する働きのバランスも、出生時には完全には確立されていません。

その後、さまざまな微生物と関わりながら免疫系が発達し、どのようなときに免疫反応を起こし、どのようなときに抑えるのかを学んでいきます。

そのため、健全な微生物叢が存在することは、子どもの免疫系が適切に発達するうえで重要だと考えられています。

実際に、出生後に「有益な」微生物が定着することが、感染症に対する抵抗力の獲得と炎症性疾患の予防の両方において重要であると結論付けています。

一人ひとり異なる「免疫の個性」

また、一卵性双生児と二卵性双生児のグループを対象とした研究では、微生物叢の構成がより類似している一卵性双生児の方が(免疫系においても)高い類似性が見られました。

一方、二卵性双生児では、免疫関連遺伝子の発現に大きなばらつきが見られることが明らかになりました。

このことから、私たちの免疫の特徴は、遺伝だけで決まるものではなく、一人ひとり異なる微生物叢などの環境の影響も受けながら形づくられていると考えられます。

言い換えれば、個人の発達は「免疫の個性」によって特徴づけられ、その個性は私たちそれぞれが持つ固有の微生物叢の構成と関連しているのです。

腸内環境を整えるには、食事と生活習慣が大切

正常な腸内細菌叢や腸内環境を保つには、規則正しい生活や充分な睡眠をとること、ストレスをためないことが大切です。

その中でも、食事の内容に気を付けることが最も大切です。食物繊維を豊富に含む豆類、穀物類、野菜、発酵食品を食べることを心掛けましょう。

特に、納豆、みそ、漬物(ぬか漬け、キムチなど)、ヨーグルトなどの発酵食品は、栄養分が吸収されやすい形になっているほか、食物繊維をはじめとする体に良い成分や善玉菌そのものを摂ることができる理想的な食品です。

日々の食事で積極的に摂り、健康な心身を維持することを心掛けましょう。

参考文献

1) M. Adawi. The role of gut microbiota in autoimmune disease progression and therapy: a comprehensive synthesis, Front Microbiomes. 2025:4:1553243.
 
この記事の監修者
納豆博士|小笠原 和也 そのもの株式会社学術顧問・九州大学大学院 農学研究院 特任准教授

小笠原 和也

そのもの株式会社学術顧問/元九州大学大学院 農学研究院 特任准教授

熊本大学大学院医学教育部卒。 ナットウキナーゼをはじめとする機能性⾷品原料の研究開発、 39年間にわたる納⾖菌を主とする微⽣物学・醗酵学・酵素学の研究開発の経験をもとに幅広く活躍中。

略歴・著書・論文実績等 詳細へ

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