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日本には季節の移ろいがあり、四つの季節それぞれに美しい風景や風を感じることができます。それと同時に、その時期に食べごろを迎える「旬」の食品も多数楽しむことができます。
「旬」と聞くと、野菜や魚などの食材を思い浮かべる方が多いかもしれません。では、味噌や醤油、漬物、納豆、日本酒などの発酵食品にも「旬」はあるのでしょうか?
実は、発酵食品の場合、「仕込む時期」と「食べごろの時期」が必ずしも同じではありません。
今回は、季節と発酵食品の関係をたどりながら、発酵食品の旬と、納豆の旬について考えてみたいと思います。

日本では、古来から季節の見目や味わいを俳句や短歌として文字にする文化があります。俳句では、特定の季節を表すために用いられる語句である「季語」を一つ入れるのがルールとなっています。
季語となっている発酵食品もいくつかあります。
例えば「夏」の季語として、甘酒や焼酎などがあります。甘酒は江戸時代から、夏バテを防ぐ天然の栄養ドリンクとして活躍していたので夏の季語となったようです。一方、焼酎がいつ頃から、なぜ夏の季語となったかは不明のようです。
その他に、「春」の季語として白酒(しろざけ)、「冬」の季語として千枚漬けなどがあるようです。
このように、発酵食品は単なる保存食というだけではなく、日本の季節や行事、食文化とも深く結びついてきました。
発酵食品は、保存食や調味料として重要な食品であると同時に、その仕込みの時期や作業は風物詩とも言えます。また、それだけではなく、行事食として季節に結び付いた文化・風習そのものでもあるのです。

発酵食品は、基本的には保存食であるため、その仕込みの時期は秋から初冬に多く見られます。秋から春にかけて収穫された大根や野沢菜、高菜などの野菜は漬物として仕込まれます。
味噌、醬油、酢は「寒造り」、「寒仕込み」が良いとされ、冬の寒い時期に仕込まれ、低温で丁寧に醗酵・熟成が進んでゆきます。
日本酒の醸造も 10月頃から翌年の3月頃まで行われます。
なれ鮨(飯ずし)の一種である鮒ずしも、原料であるニゴロブナを 2 ~ 5月頃に捕り塩漬け(一次仕込み)にし、7 ~ 9月に本仕込が行われます。
このように見ると、発酵食品には「旬」よりも「仕込みの季節」がはっきりしているものが多いことが分かります。
特に寒い時期に行われる「寒仕込み」は、日本の発酵文化を語るうえでも特徴的な習慣の一つです。

ただ、漬物では、浅漬けは漬ける期間が短く、古漬けでは長期間に及びます。
味噌も淡色系の味噌は発酵・熟成期間は比較的短く、濃色系の味噌は比較的長い間発酵・熟成を行います。醤油も種類によって発酵・熟成期間が異なります。
このように、発酵食品の場合は、仕込みの時期は風物詩とされますが、食す時期はまちまちであり、「旬」の時期はハッキリしません。
つまり、野菜や魚のように「この時期が一番おいしい」という意味での旬を、すべての発酵食品に当てはめるのは難しいと言えます。
一方で、特定の季節に仕込まれたり、新酒や新物が出回ったり、季節の行事と結びついたりすることで、「旬」を感じられる例外的な発酵食品もあります。
その代表的な例として、日本酒と納豆があげられます。

日本酒は、10月頃から醸造が開始され、翌年の2 ~ 3月に「蔵開き」が行われ、新酒が振舞われるようになります。
ある意味で、2 ~ 3月頃が「旬」の時期であるともいえます。
さらに、夏を越して秋になると、良い具合に熟成された「ひやおろし」が楽しめるようになるので、9 ~ 11月頃に第二の「旬」が訪れます。
「新酒」と「ひやおろし」という異なる味わいを季節ごとに楽しめるのは、日本酒ならではの魅力の一つと言えるでしょう。
近年では、醸造技術の発達で年間を通じて醸造を行う四季醸造を行う蔵も増えており、日本酒の「旬」が段々となくなっているいるようにも感じます。

では、日本人にとって身近な発酵食品である「納豆の旬」は、いつなのでしょうか。
納豆に関しては、宮城県、山形県、福島県、栃木県、新潟県の5県では、秋に収穫し乾燥を終えた大豆を用いて、年の暮れに正月用の自家製納豆をつくることが慣わしとなっていたようです。
この地域では、納豆は通常の食事ではなく“ハレの日”の食事であったと、大正の終わりから昭和の初めころの日本の食事を記録した『日本の食生活全集』に記されています。
また、歳時記と関連する資料に、北日本の一部の地域では、1月6日は「納豆の年取り」とされています。「納豆の年取り」とは、年越しを指す「年取り」の日に納豆を食べて、その年の無病息災を願う伝統行事です。
この日の夕方に納豆をすりつぶして納豆汁を作り食すると、“万病の根が抜けて行く”と伝えられているそうです。
その意味では、納豆の「旬」は 1月頃と言えるのかもしれません。ただし、ここでいう「旬」は、大豆そのものが1月に旬を迎えるという意味ではありません。
秋に収穫された大豆を使って納豆を仕込み、正月などの行事食として食べるという、地域の食文化や季節の習慣から生まれた“納豆の旬”と考えると分かりやすいでしょう。
とは言え、現在では、納豆は日配品との認識が強く、スーパーなどでは一年を通して購入できるため、「旬」の時期という感覚そのものがなくなっているかもしれません。
けれども、昔の食文化をたどってみると、納豆もまた、季節や行事と深く結びついた食品だったことが分かります。
なお、漬物の中にも一部、季節が限定されているものもあります。
京都の千枚漬けが代表です。千枚漬けは、聖護院かぶらを原料として 11 ~ 3月頃だけ製造販売されます。千枚漬けは、この時期が「旬」と言えるかもしれません。
千枚漬けのように、原料となる野菜の収穫時期や製造時期が限られている発酵・漬物食品は、季節の訪れを感じさせてくれる存在でもあります。
逆に、「旬」の時期、つまり、本来の食べごろの時期と最も食べられる時期が異なっている食材もいくつかあります。
代表的なものは「ウナギ」です。ウナギと言えば、土用の丑の日を思い浮かべる方は多いでしょう。
「土用の丑の日」とは、五行思想に基づく季節の変わり目を意味する「土用」の期間中に訪れる、十二支(干支)に基づく日付である「丑の日」を示します。土用は、四季の四立(立春、立夏、立秋、立冬)の直前の約18日間を指します。
夏の土用の丑の日は、7月19日 ~ 8月7日の間に訪れ、毎年異なります。夏の暑い時期を乗り切るために、栄養豊富なウナギを食べるという風習は万葉集にも詠まれており、1700年代後半頃から続いているようです。
しかしながら、天然のウナギの脂が最ものって美味しい時期は 10 ~ 12月頃と言われており、本来の旬は冬と言えます。
このように、「よく食べられる時期」と「本来の旬」が異なる食品もあります。
また、意外に知られていないのが「アジ」の旬です。
アジは晩春から初夏(5~ 8月)にかけてが最も脂のりが良く良質で、特に 6 ~ 7月は非常に食味に優れていると言われています。
昨今は異常気象が異常ではなくなり、気候や気象が過去の思い出と異なることが多くなってしまいました。
気候・気温から季節を感じることが薄くなりましたが、その時期になれば様々な食品・食材が並んでいます。「今年も来たな」と微笑みながら旬の食材をいただく楽しみは続きます。
発酵食品について調べてみると、そこには単なる「食べ物」だけではなく、季節の移ろい、収穫、仕込み、熟成、行事など、日本の食文化そのものが見えてきます。
毎日の食卓で何気なく食べている納豆や味噌、漬物、日本酒などにも、それぞれの季節や土地に根付いた物語があります。
「旬」の食材から地球と生き物のエネルギーをいただき、日々の健康と幸福を感じてみませんか?
参考文献
1) 発酵食品と日本の四季
https://nobitokisu.com/fermentation-seasons/
2) 夏の発酵食品!甘酒の力! : 一般社団法人 日本醗酵文化協会
https://hakkou.or.jp/blog/12188/
3) ワラ文化と納豆
https://knowchi.jp/archives/951
4) 特集(2) 鰻(1) ウナギに関する疑問 : 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1607/spe2_01.html
5) 旬の魚「鯵(アジ)」 : お魚たんぱく健康研究会
https://www.fishprotein.net/letter/7_aji/

小笠原 和也
そのもの株式会社学術顧問/元九州大学大学院 農学研究院 特任准教授
熊本大学大学院医学教育部卒。 ナットウキナーゼをはじめとする機能性⾷品原料の研究開発、 39年間にわたる納⾖菌を主とする微⽣物学・醗酵学・酵素学の研究開発の経験をもとに幅広く活躍中。

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