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前回、ホールフード(未加工食品)が超加工食品より優れている点についてお話ししました。その最後に少し触れた、「栄養インテリジェンス(Nutritional Intelligence)」について、今回は詳しく見ていきます。
ブリストル大学の J. M. Brunstrom らによる研究では、人は未加工食品の選択肢が与えられると、直感的に栄養と満腹感のバランスが取れた食品を選ぶことが示されました。
このような、人間が本来持つ「栄養を見極める力」を栄養インテリジェンスと呼びます。


前回紹介した、ブリストル大学の J. M. Brunstrom らによる論文(K. D. Hall らによる超加工食品がエネルギー摂取量と体重増加に与える影響を調査した臨床試験の再解析調査)で、著者らは
人々は、未加工食品の選択肢が与えられると、直感的に栄養と満腹感のバランスが取れる食品を選び、食べる喜びも選ぶ。同時に全体的なエネルギー摂取量は減少することが示された。
と述べ、この能力を「栄養インテリジェンス(Nutritional Intelligence)」とよんでいます。
つまり、「栄養インテリジェンス(Nutritional Intelligence)」とは、人間が本来持つ直感的栄養分選択能力を示しています。
人間は、食べ物を選ぶ際に、単にエネルギー(カロリー)だけでなく、ビタミンやミネラルなどの必要な栄養分を摂取し、栄養不足を避ける能力を本来持っているとする説です。

J. M. Brunstrom らによる栄養インテリジェンスに関する論文で、著者らは、「伝統的に人は味覚や学習を通じて食べ物の栄養価を正確に判断できない」という考えに異議を唱えています。
そして、人間の栄養認識能力と食事選択における関係を、文化的・社会的要素を含め再評価しています。
著者らは、「食品の味や見た目だけでは栄養情報は十分に伝わらず、味と栄養の関係は弱い」とされる考えに対し、日常の食事や文化的習慣を通じて、栄養に関する知恵や感覚が形成されていると反論を述べています。
ヒトは食品・食事を見た時に、期待される満腹感と満足感を予測し、どの程度食べられるか・食べたら良いかの計画を立て、さらにビタミンやミネラルなどの微量栄養素についても選んでいると考えている。日常的な食行動において、ヒトは微妙な栄養感覚を本能的に持っている可能性があると述べています。
そして、これを「栄養インテリジェンス」として提唱しています。
「栄養インテリジェンス」という能力で、ヒトは次の傾向や可能性を持っているとされています。
食品の栄養組成に対する高い感度を有している可能性があり、タンパク質を含む食品を高く評価する傾向がある。
味は栄養分のシグナルとなっている可能性がある。甘味は炭水化物を、苦味は有害物質を示すことがあり、うま味や甘味の強さが主栄養分の変動を示している。
食べ物がどの程度満腹感をもたらすか、空腹を抑えるかを予測する能力があり、エネルギー密度(カロリー)に基づいた食品の選択を行っている。
これらの傾向や可能性に対し、風味(香りや味)と栄養分に関する経験や学習が社会的に伝達され、食文化や調理法は「栄養インテリジェンス」を世代間で伝える〝説明書〟として機能するとも提唱しています。
そして、個人の「栄養インテリジェンス」を高めることは、
などの、健康的な食生活に繋がると提唱されています。

しかしながら、現代の食環境においては栄養インテリジェンスの維持に課題が突きつけられています。
超加工食品の普及により、栄養インテリジェンスが本来の機能を果たせない可能性が指摘されています。つまり、人工的な味付けが、人間の栄養判断を狂わせる可能性が懸念されているのです。
超加工食品は、コストが安く、長期保存が可能で便利である反面、必須ビタミンやミネラルが不足し栄養欠乏になる可能性とともに、人工的な味付けが、ヒトが本来持つ栄養不足を避ける能力を衰退させる可能性も示唆されています。

それに対し、一つの解決策が提案されています。
AIを活用した栄養インテリジェンスです。
クィーンズ大学(イギリス)の D. I. McCarthy は、2025年に掲載された論文の中で、「食料システムの改善には、複雑な食習慣や環境・健康の課題に対応するため、AIやデータを用いた栄養インテリジェンスの責任ある設計と展開が不可欠である」と述べています。
著者は、
と述べています。
*DALYs とは、Disability-adjusted life years の略で、日本語では〝障害調整生存年〟と訳されています。傷病、機能障害、危険要因、社会事象毎に、健康に影響する大きさを定量的に取り入れた、健康の評価指標です。
AIは以下のような活用が期待されています。
事実、食品小売では、NLPを用いた商品分類や栄養属性の自動付与に用いられており、食品ラベルや成分情報の自動解釈、健康志向の表示、商品交換提案など多様な場面で利用されているとも述べています。
その一方で、高品質な食品成分データの整備とアクセス性の向上が最重要課題であり、ドメイン知識を持つ専門家の関与、継続的な品質管理、倫理的配慮(プライバシー、インクルーシブ性、透明性など)の徹底が必要であると述べています。
また、AIの側では、公平性や偏見排除、規制遵守、説明性を重視し、信頼性を確保することが必要であり、多様なステークホルダーと連携し、社会的・文化的背景を考慮したインクルーシブな技術開発を推進することが必要であるとも述べています。
今後、これらの課題を解決していく必要が示されています。
ある一面において、責任ある AI とデータを活用した栄養インテリジェンスは、食システムの変革と地球規模での健康促進に向けた重要なツールとして期待されているのも事実です。

現在、我々は一つの分岐点にいるのかもしれません。
超加工食品があふれかえり便利になった今、AIによる栄養インテリジェンスを利用し、食生活を組み立て、健康を求めるのか?
あるいは、ホールフード(未加工食品)に立ち返り、ヒト本来が持つ栄養インテリジェンスの力で健康を求めるのか?
当然、その「ハイブリッド」もあると思います。
今一度、皆様の食生活と健康を見直すきっかけとなれば幸いです。
参考文献
1) K.D. Hall, et al., Ultraprocessed diets cause excess calorie intake and weight gain: an inpatient randomized controlled trial of ad libitum food intake, Cell. Metab. 30 (1), 67–77 (2019)
https://doi.org/10.1016/j.cmet.2019.05.008.
2) J. M. Brunstrom et al., Consuming an unprocessed diet reduces energy intake; a post-hoc analysis of a randomized controlled trial reveals a role for human nutritional intelligence, Am J Clin Nutr., 2025 Dec 29 (Epub ahead of print)
3) J. M. Brunstrom et al., Human nutritional intelligence underestimated Exposing sensitivities to food composition in everyday dietary decisions, Physology & Behevior 263 (2023) 114127
4) D. I. McCarthy., Nutritional intelligence in the food system: Combining food, health, data and AI expertise, Nutritional Bulletin, 2025;50:142-150
5) 障害調整生存年:国立研究開発法人 医薬基礎・健康・栄養研究所 ホームページ 用語解説
https://www.nibn.go.jp/eiken/kouroukaken_health_economics/yougo_iryou_daly.html

小笠原 和也
そのもの株式会社学術顧問/元九州大学大学院 農学研究院 特任准教授
熊本大学大学院医学教育部卒。 ナットウキナーゼをはじめとする機能性⾷品原料の研究開発、 39年間にわたる納⾖菌を主とする微⽣物学・醗酵学・酵素学の研究開発の経験をもとに幅広く活躍中。

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