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食物繊維とは?
「食物繊維とは、食べ物の中に含まれ、ヒトの消化酵素で消化することのできない物質で、第6の栄養素といわれることもある(食物繊維 e-ヘルスネット : 厚生労働省)」と、解説されています。栄養成分的には、炭水化物の構成成分で、食物繊維と糖質の合計が炭水化物量となります。
炭水化物 = 糖質 + 食物繊維
食物繊維の話をする前に、「糖質」について簡単に解説します。
糖質とは、「たんぱく質、脂質と並ぶエネルギー産生栄養素のひとつ。炭素と水素の化合物で、消化されてエネルギー源となる(炭水化物/糖質 e-ヘルスネット : 厚生労働省)」と、解説されています。
つまり、炭水化物のうち、ヒトによって消化されるものが「糖質」、消化されないものが「食物繊維」になります。
また、糖質は、「単糖類」、「少糖類」、「多糖類」に分類されます。
- 単糖類
単糖類は、それ以上分解されない糖類、つまり、単一の分子で構成される糖類です。ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトースが代表です。
- 小糖類
小糖類は、単糖が二つ以上結合したものです。砂糖の主成分であり、ブドウ糖と果糖が結合した「ショ糖(シュークロース)」、麦芽に含まれ、ブドウ糖が二つ結合した「麦芽糖(マルトース)」、牛乳や母乳などの乳類に含まれ、ブドウ糖とガラクトースが結合した「乳糖(ラクトース)」などがあります。単糖が三つ以上結合したものが「オリゴ糖」と総称されますが、定義はやや曖昧です。
- 多糖類
多糖類は、単糖が十個以上結合したもので、消化性多糖類と難消化性多糖類にわかれます。消化性多糖類にはでんぷん、グリコーゲンなどがあり、難消化性多糖類は食物繊維に分類されます。
食物繊維とは?
食物繊維は「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」にわけられます。水溶性食物繊維と不溶性食物繊維は、それぞれ特性やはたらきが異なるため、どちらもバランスよく摂ることが大切です。
水溶性食物繊維とは?
水に溶ける食物繊維です。海藻や果物、野菜などに多く含まれます。
腸内の善玉菌のエサとなるほか、便を柔らかくする作用があります。脂質代謝の改善効果や血糖値の上昇抑制効果なども報告されています。代表的なものは次の通りです。
- オリゴ糖
単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトースなど)が 3 個以上結合した糖類。基本的に難消化性オリゴ糖を指しますが、オリゴ糖全般が含まれる場合もあります。難消化性オリゴ糖として、牛乳や母乳に含まれる乳糖に糖類が結合したガラクトオリゴ糖、ショ糖に糖類が結合したフラクトオリゴ糖、ブドウ糖がベースとなっているイソマルトオリゴ糖、大豆中に含まれる大豆オリゴ糖(ラフィノース、スタキオース)などが代表です。キシロースやパラチノースなどの虫歯になりにくい糖アルコールも含まれます。
- 難消化性デキストリン、イソマルトデキストリン
デキストリンとは、デンプンを酵素で分解し低分子化したものです。グルコースが多数結合したものです。直鎖状に結合したグルコースに多数の枝分かれがあるため消化されにくい構造となっています。代表的な水溶性食物繊維であるとともに、数多くの機能性表示食品の主原料や粉状製品の賦形剤(かさまし材)として利用されています。
- イヌリン
ごぼう、にんにく、チコリ、玉ねぎ、菊芋などに多く含まれる多糖類で、ショ糖にフルクトースが結合したオリゴ糖の一つです。甘味料や食品添加物として利用されています。腸内細菌による利用率(発酵度)が高く、注目されています。なお、フルクトースが 3 ~ 5個結合したものはフラクトオリゴ糖と呼ばれます。
- ペクチン
果物(オレンジなどの柑橘類、リンゴ、バナナ)や野菜に多く含まれる多糖類で、ガラクツロン酸が多数結合したものが主成分となっています。食品添加物の増粘多糖類(ゲル化剤、増粘剤、安定剤)として、ジャムやゼリー、ヨーグルト飲料、酸性飲料などにも利用されています。
- アルギン酸
昆布やワカメなどの海藻類に多く含まれる多糖類で、L-グルロン酸と D-マンヌロン酸が多数結合したものです。食品添加物の増粘多糖類として、ゼリー製造時のゲル化剤、パンなどの小麦粉製品やデザート類のテクスチャー改善などにも利用されています。
- β-グルカン
穀類(大麦、オーツ麦、小麦など)やキノコに多く含まれる多糖類で、グルコースが多数結合した多糖類の総称です。大麦、オーツ麦では、水溶性食物繊維の内 74 ~ 77 % がβ-グルカンと報告されています。多くの穀類やキノコ・酵母に含まれていますが、それぞれに構造が異なり、この違いが物性の変化をもたらし、機能性にも影響を与えていると報告されています。
不溶性食物繊維とは?
水に溶けにくい食物繊維です。豆類や玄米、小麦などに多く含まれます。
体の中を通過して排出される際に、便の量と水分を増やして腸管を刺激し、腸の運動を活発化させ、便通を整える働きをします。一部は善玉菌のエサにもなります。代表的なものは次の通りです。
- セルロース
植物の主成分で、植物の乾燥重量の約 40 % を占める、地球上で最も生産・蓄積される生物資源(バイオマス)です。パルプ・紙製品、セロハンフィルム、繊維だけでなく、食品添加物として、ココア飲料などの安定化剤、錠剤の賦形剤(かさまし材)などとして広く利用されています。
- アラビノキシラン
植物細胞を構成する物質で、セルロースと深く関与していることからヘミセルロースと総称される不溶性食物繊維の一つです。イネ科の植物(米、小麦)に多く含まれますが、部位としてはヌカや外皮に存在するため、玄米や小麦全粒粉などから摂取する必要があります。近年の研究では、調理・加工時やアルカリ処理、腸管内では腸内細菌の働きで水溶化され機能性を示すとの報告もあります。
まとめ
食物繊維は、前述の機能の他に、脂質、糖質、ナトリウムやミネラル分を吸着して、体外へ排泄する作用もあり、肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病、塩分の摂り過ぎなどの予防・改善効果が期待されています。
食物繊維が不足すると、腸内環境が悪化し、便秘などになりやすくなります。それが長期化すると、生活習慣病のリスクなども増えていきます。ちなみに、現代の日本人は食物繊維の摂取が不足気味であることが指摘されています。
気になる方は、普段の白米を玄米にしてみたり、食物繊維が豊富な食品を一品加えてみるなど、簡単なところから、普段の食生活を見直してみるのも良いかもしれませんね。
プラス一品には「納豆」がオススメ
簡単に一品足すなら、「納豆」がオススメです。食物繊維が豊富な食品と言えば、ゴボウ、キノコ類、コンニャク類が思い浮かぶと思いますが、これらの食品より納豆の方が食物繊維は多いのです。
さらに、納豆は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方を摂取できます。
納豆に含まれる水溶性食物繊維は 2.3 g 、不溶性食物繊維は 4.4 g (可食部 100 g 中)となっています。毎日納豆1~2パックを摂ることで、食物繊維量の不足分を補えます。
ぜひ、普段の食習慣に納豆をプラスしてみて下さいね。
参考文献・サイト
1) 食物繊維 e-ヘルスネット : 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-016.html
2) 炭水化物/脂質 e-ヘルスネット : 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-018.html
3) 食物繊維の必要性と健康 e-ヘルスネット : 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-001.html
4) 食物繊維の働きと1日の摂取量 健康長寿ネット : 公益財団法人長寿科学振興財団
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/shokumotsu-seni.html
5) 日本食品標準成分表(八訂) 炭水化物成分表編 第2章本表別表1(データ) : 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
6) ペクチン : 多糖類.com ,MP五協フード&ケミカル株式会社
https://www.tatourui.com/about/type/05_pectin.html
7) 浅桐公男:イヌリン,外科と代謝・栄養,54 (3), 160-161, (2020)
8) アルギン酸: 多糖類.com ,MP五協フード&ケミカル株式会社
https://www.tatourui.com/about/type/10_sodium_alginate.html
9) セルロース: 多糖類.com ,MP五協フード&ケミカル株式会社
https://www.tatourui.com/about/type/15_cellulose.html
10) 青江誠一郎:穀類に含まれる食物繊維の特徴について,日本調理科学会誌,49 (5), 297-302, (2016)
この記事の監修
小笠原 和也
そのもの株式会社学術顧問/九州大学大学院 農学研究院 特任准教授
熊本大学大学院医学教育部卒。 ナットウキナーゼをはじめとする機能性⾷品原料の研究開発、 35年間にわたる納⾖菌を主とする微⽣物学・醗酵学・酵素学の研究開発の経験をもとに幅広く活躍中。