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今注目の「発酵性食物繊維」とは?
食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維にわけられ、それぞれバランスよく摂ると良いと言われています。では、「バランスよく」とはどのくらいの比率で食べるのが適しているのでしょうか?
現時点での答えは、「それには意味がない」です。
近年の研究では、食物繊維の種類ではなく、「発酵性」が重要であると言われています。ここでいう「発酵性」とは、「腸内細菌による分解吸収」を意味します。つまり、どれだけ腸内細菌のエサになりやすいかが重要なのです。
発酵性食物繊維 = 腸内細菌のエサになりやすい食物繊維
食物繊維の発酵分解率の違い
食物繊維の定義は「ヒトの消化酵素で消化することのできない物質」です。しかし、一部の食物繊維は腸内細菌によって発酵(分解)されます。
食物繊維は、発酵分解率(腸内細菌による分解率)によって、高発酵性(発酵分解率 75 % 以上)、中発酵性(25 % 以上、75 % 未満)、低発酵性(25 % 未満)に分類されます。
ペクチン、イヌリン、β-グルカン、フラクトオリゴ糖などは高発酵性食物繊維、難消化性デキストリンなどは中発酵性食物繊維、セルロースやリグニン、寒天は低発酵性食物繊維とされています。
高発酵性食物繊維:ペクチン、イヌリン、β-グルカン、フラクトオリゴ糖など
中発酵性食物繊維:難消化性デキストリンなど
低発酵性食物繊維:セルロースやリグニン、寒天など
高発酵性食物繊維を含む主な食材は、大豆などの豆類、穀類(大麦、オーツ麦、小麦など)、いも、ごぼう、玉ねぎ、キノコ、柑橘類やリンゴなどです。
発酵性食物繊維の効果
発酵性食物繊維は、腸内細菌のエサとなります。そして腸内細菌によって発酵され、短鎖脂肪酸になります。短鎖脂肪酸とは、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの総称です。
短鎖脂肪酸には、腸内を適度な酸性に保つことで、病源菌や悪玉菌の増殖を抑えたり、殺菌する作用があります。また、大腸のエネルギー源となるほか、腸のバリア機能を高める作用も持っており、病原菌などの感染予防や、免疫機能、神経機能にも大きく関与しています。
このように、発酵性食物繊維を摂取することで様々な健康効果があることがわかっています。
ビフィズス菌はアラビノオリゴ糖を分解する
各食物繊維の発酵性の違いは、腸内細菌の特性に依存しています。つまり、それぞれの腸内細菌には、食物繊維の好き嫌いがはっきりしているとも言えます。
2022年に、スタンフォード大学の研究チームは、発酵性食物繊維のアラビノキシランとイヌリンのサプリメント摂取による効果を検証しました。その結果、アラビノキシランには LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)低下効果と胆汁酸の増加効果が確認されました。
この研究に関連して、鹿児島大学の藤田清貴 准教授らの研究では、ビフィズス菌は数多くのアラビノオリゴ糖を分解する酵素を持っており、それらの酵素は、細胞表層に結合していることが報告されています。
つまり、ビフィズス菌の細胞表面には複数種類のアラビノオリゴ糖分解酵素が存在しており、大腸内で、自分の近くに流れて来たアラビノオリゴ糖をキャッチし、分解して細胞内に取り込んでエサにしているのです。
つまり、アラビノオリゴ糖はビフィズス菌の大好物といえるのです。
アラビノキシラン:キシランの主鎖にアラビノース等が結合した不溶性食物繊維
アラビノオリゴ糖:アラビノースに糖が結合したオリゴ糖(水溶性食物繊維)
アラビノキシランとアラビノオリゴ糖は、どちらも、アラビノースを含む食物繊維で、アラビノースが主な機能性の元となっていると考えられています。
アラビノース(L-アラビノース)は、次のような食品に含まれています。
とうもろこし、米などの穀類、テンサイ(甜菜、ビート)、りんごなどの植物、 味噌や酒などの発酵食品
まとめ
今後、どの善玉菌がどのオリゴ糖分解酵素を持っているかの研究が進めば、どの善玉菌がどの食物繊維を好むか(発酵しやすいか)がわかるでしょう。つまり、特定の善玉菌への効果的な摂取方法も明らかとなっていくと期待されます。
ただし、特定の善玉菌だけが増えても健康効果は低いと考えられます。腸内細菌も数だけでなく、多様性(種類の多さ)が大事であると考えられています。
食物繊維が豊富な植物性食品や発酵食品を、バランスよく、適量を摂り続けることが健康への近道なのかもしれません。
参考文献・サイト
1) 食物繊維の働きと1日の摂取量 健康長寿ネット : 公益財団法人長寿科学振興財団
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/shokumotsu-seni.html
2) 食物繊維のはなし : 医療法人緑風会 風間内科医院 ホームページhttps://kazama-naika.com/blog/%E9%A3%9F%E7%89%A9%E7%B9%8A%E7%B6%AD%E3%81%AE%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%97
3) 天江新太郎:経腸栄養における食物繊維の役割について,日重障誌,43 (1), 63-69, (2018)
4) 繊維 : 微量栄養素情報センター(Linus Pauling Institute, Oregon State University & Niigata University of Pharmacy and Medical and Life Science)
https://lpi.oregonstate.edu/jp/mic/%E3%81%9D%E3%81%AE%E4%BB%96%E3%81%AE%E6%A0%84%E9%A4%8A%E7%B4%A0/%E7%B9%8A%E7%B6%AD
5) Samuel M. Lancaster, B. Lee-McMullen, et al. Global, distinctive, and personal changes in molecular and microbial profiles by specific fibers in human, Cell Host & Microbe 30, 1-15, June 8, 2022
6) Y. Sasaki, M. Yanagita, et al. Assimilation of arabinogalactan side chains with novel 3-o-Beta-L-arabinofururanosidase in Bifidobacterium pseudocaatenulatum, Microbiome Research Reports, 2, 12 (2023) ; https;//doi.org/10.20517/mrr.2023.08
この記事の監修
小笠原 和也
そのもの株式会社学術顧問/九州大学大学院 農学研究院 特任准教授
熊本大学大学院医学教育部卒。 ナットウキナーゼをはじめとする機能性⾷品原料の研究開発、 35年間にわたる納⾖菌を主とする微⽣物学・醗酵学・酵素学の研究開発の経験をもとに幅広く活躍中。