胃酸に耐える乳酸菌とは?有胞子性乳酸菌の特徴を解説

生きて腸まで届く 納豆菌を毎日手軽に。そのもの納豆
生きて腸まで届く 納豆菌を毎日手軽に。そのもの納豆

ヒトの体内で、納豆菌と相性が良い乳酸菌。そんな乳酸菌の最近の話題について、少し解説をしてみたいと思います。

目次

乳酸菌とは?

乳酸菌とは、糖類(主にブドウ糖)を食べて、乳酸という酸を作る菌の総称です。約400種類ほどが報告されています。その一部は、人の腸内において善玉菌として働いているほか、チーズ、ヨーグルト、発酵バター、乳酸菌飲料などの製造に使用されています。近年最も研究が進み、注目されている菌群です。

乳酸菌の多くは酸素がある環境で生育しますが、酸素が薄い環境の方が元気に増殖します。そのため、ヒトの腸内では、酸素の薄い小腸の後半部に棲みつきます。

ビフィズス菌との違い

ちなみに、ビフィズス菌は、Bifidobacterium属(ビフィドバクテリウム属)に分類される菌で、乳酸ではなく酢酸を作ります。また、ヨーグルトなどの製造に使用されますが、酸素が無い環境で生育する嫌気性菌ですので、ビフィズス菌が含まれている食品は限られています。ヒトの腸内では、酸素が無い大腸に棲みついています。

生きて腸まで届く乳酸菌とは?

最近、某食品メーカーのお菓子に配合されている、生きて腸に届く(胃酸でも死なない)乳酸菌についての実験動画が公開されました。

私たちの解説では、しばしば、「乳酸菌の多くは胃酸の影響で死んでしまう」と説明してきました。先の動画をみられた方は、矛盾するのでは?と疑問に思われたかもしれません。

では、「胃酸で死なない乳酸菌」について、少し解説してみましょう。

有胞子性乳酸菌は、納豆菌の親戚である

この菌は、「有胞子(性)乳酸菌」という名称で、以前から健康食品などに使われている細菌です。近年、食品にも使用されるようになってきました。生育の過程で乳酸を作るので、乳酸菌の分類に入るのは間違いではありません。

ただし、この菌の学術名はBacillus coagulans(バチルス コアギュランス)(注)といいます。Bacillus属の細菌で、いうなれば、納豆菌や枯草菌の親戚なのです。

Bacillus属は、酸素のある環境で生育し、胞子(芽胞)を作る菌が分類されるグループです。納豆菌や枯草菌と同じく、胞子(芽胞)をつくりますので、胞子の状態になれば胃酸に耐えることができます。納豆菌ほど強い胞子ではありませんが、一応、胞子形成菌ではあります。

健康食品などの配合素材として長年使われていますが、ヨーグルトや乳酸菌飲料の製造に使われたことはありません。なお、前述の某食品メーカーから有胞子性乳酸菌配合の乳酸菌飲料が発売されていますが、発酵時に使われているかは不明です。

(注)Bacillus coagulans (バチルス コアギュランス)は、2020年に新設された「Weizmannia(ワイズマニア)属」に、2023年には「Heyndrickxia(ヘインドリクシア)属」に再分類され、最新の学術名は「Heyndrickxia coagulans(ヘインドリクシア コアギュランス」となっています。 

有胞子性乳酸菌は、一般に知られている乳酸菌とは別物

有胞子性乳酸菌は、納豆菌と同じように小腸前半部に棲みつきますので、ヒトの腸内で善玉菌として働いている一般的な〝乳酸菌〟とは生育する部位が異なります。

生育の過程で乳酸も作りますが、作られた乳酸は小腸前半部で速やかに吸収され、善玉菌が働いている小腸後半部には届きません。もちろん、元々腸内に棲みついている菌でもありません。

また、元理化学研究所の辨野義己 博士が記された、乳酸菌の分類と効能に関する論文中に明記されている「乳酸菌の属する菌属、菌種(亜種)数、およびその特徴」表中に、本菌の記載はありません。もちろん、論文発表年時点では、既に、健康食品原料として広く使用されていました。

悪い菌ではありませんが、ヒトの腸内で善玉菌でとして働いていたり、ヨーグルトや乳酸菌飲料をつくる〝乳酸菌〟と同じように扱うことには少し疑問を感じます。唯一の胞子形成能を持つ乳酸菌、つまり、例外的な乳酸菌なのです。

参考文献・サイト

1)    辨野義己.プロバイオティクスとして用いられる乳酸菌の分類と効能,モダンメディア57 (10), 277-287 (2011)
2)    JCM Mail News (電子メール版) No. 129 : 理化学研究所 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室(JCM)
https://jcm.brc.riken.jp/ja/mailnews/mailnews2023/mn20240314
 
 
この記事の監修
納豆博士|小笠原 和也 そのもの株式会社学術顧問・九州大学大学院 農学研究院 特任准教授

小笠原 和也

そのもの株式会社学術顧問/九州大学大学院 農学研究院 特任准教授

熊本大学大学院医学教育部卒。 ナットウキナーゼをはじめとする機能性⾷品原料の研究開発、 35年間にわたる納⾖菌を主とする微⽣物学・醗酵学・酵素学の研究開発の経験をもとに幅広く活躍中。

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