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日本で増えている「大腸がん」の原因は悪玉菌?最新の研究から見る腸内環境と病気の関係

目次

世界中で増え続けている〝早期発症がん〟

最近、気になる論文をいくつか読んだので、要点だけを簡単にまとめてみました。まず、最初の論文は、シンガポール国立大学の研究グループによるコホート研究論文です。

 「Patterns in Cancer Incidence Among People Younger Than 50 Years in the US, 2010 to 2019」(訳:2010年から 2019年までの米国における 50歳未満の人々のがん罹患パターン) 
Benjamin Koh, Darren Jun Hao Tan, et al
JAMA Network Open. (August 16, 2023)
2023;6(8):e2328171. doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.28171

研究グループは、アメリカの国立がん研究所(National Cancer Institute, NCI)のデータを用い、2010年 1月 1日 ~ 2019年12月31日までの、アメリカにおける 50歳未満の早期発症がん罹患率の変化を調査しました。

なお、データは、人口10万人あたりの年齢標準化罹患率で算出されています。 調査対象は、562,145名の早期発症がん患者です。その内、40 ~ 49歳の患者は 57.7 % であり、女性が占める割合は 62.5 % でした。

調査期間における早期発症がんの罹患率は上昇しており、罹患数が最も多かったのが乳がん、次いで消化器がんであったと報告されています

日本で〝大腸がん〟の増加が問題視されている

近年、50歳未満の早期に発症する早期発症がんの増加が世界的に問題になっています。

日本においても同様であり、いくつかの研究論文が報告されています。日本においては、消化器がんの一つである〝大腸がん〟の増加が問題視されています。大腸がんの罹患者数は継続して増加傾向にあり、50歳未満で世界5位、50歳以上で世界3位と欧米諸国を超えてトップクラスとなっています。若年者症例も年々増加しているとも報告されています。

大腸がんに関連して、次のような論文も報告されています。

「Risk of Colorectal Cancer Associated With Frequency of Colorectal Polyp Diagnosis in Relatives」(訳:大腸がんのリスクは親族の大腸ポリープ診断の頻度と関連している)
Yuqing Hu, Elham Kharazmi,et al
Gastroenterology 2025;168:931–938
https://doi.org/10.1053/j.gastro.2024.12.030

ドイツのハイデルベルク大学などの研究グループによる調査で、対象はスウェーデンの大規模な家族性がんデータセット 11,676,043名(1964 ~ 2018年)となっています。親族のポリープ診断と、大腸がんの全体的なリスクおよび早期発症リスクとの関連を評価した研究論文です。結果として、大腸腫瘍の家族歴のない人に比較して、下記が報告されています。

  1. 一等親血縁者(親、子、兄弟姉妹)に1回のポリープ診断歴がある人の、全大腸がんリスクは 1.4倍、早期発症大腸がんリスクも 1.4倍であった。
  2. 1人の一等親血縁者に 2回以上のポリープ診断歴がある人の、全大腸がんリスクは 1.8倍、早期発症大腸がんリスクは 2.3倍であった。
  3. 1回のポリープ診断歴のある一等親血縁者が 2人以上いる場合、全大腸がんリスクは 1.9倍、早期発症大腸がんリスクは 2.2倍であった。
  4. 2回のポリープ診断歴のある一等親血縁者が 2人以上いる場合、全大腸がんリスクは 2.4倍、早期発症大腸がんリスクは 3.9倍であった。
  5. 一等親血縁者のポリープ診断時の年齢が若いほど大腸がんリスクは高かった。
  6. 二親等血縁者(祖父母、孫、叔父叔母、甥姪など)にポリープ診断歴が2回以上ある場合も大腸がんリスクの増加が認められた。

スウェーデン人が対象ではありますが、日本人にも同様のリスクがあると推測されます。自身や近しい親族に、大腸ポリープ発症歴がある方は、定期的な大腸がん検診を受診し、早期発見に努めることを推奨いたします。

善玉菌が元気で、健康な腸内環境を維持することが重要

三つ目の論文は、日本の国立がん研究センターを含む国際共同研究チームによる研究で、Nature誌に2025年4月に公開された論文です。

日本を含む 11ヶ国、981例の大腸がん患者を対象とした研究で、大腸がんの全ゲノム解析を行い、人種や生活習慣の異なる地域でのがん発症頻度に差がある原因を解明し、地球規模での新たな予防戦略を進めることを目的としたものです。

「Geographic and age variation in mutational process in colorectal cancer」
(訳:大腸がんの変異過程における地理的および年齢的変動)
Marcos Diaz-Gay, Wellington dos Santos, et al 
Nature, 2025 Apr 23; doi:10.1038/s41586-025-09025-8

解析の結果、日本人症例の 5割に、一部の腸内細菌が作るコリバクチン毒素による変異パターンが存在することがわかりました。また、コリバクチン毒素による変異は、70歳以上の高齢者症例に比べて、50歳未満の若年者症例に 3倍多い傾向が確認されました。最初の論文で紹介した、世界的に問題になっている50歳未満の若年層での早期発症大腸がんの重要な発症要因である可能性が示唆されたのです。

さらに、大腸がんの初期段階で起こるAPC変異の 15 % がコリバクチン毒素によるものであることがわかり、コリバクチン毒素による DNA変異が大腸がん発症早期から関与していることも示されました。また、大腸がんにおけるコリバクチン毒素による変異パターンは、その時に存在しているコリバクチン毒素生産菌の量とは関連しないことから、早期から持続的に暴露していることが大腸がんの発症に寄与していると推測されています。

コリバクチン毒素とは、大腸菌などが作る毒素で、DNAを傷つける作用がある毒素です。

つまり、50歳未満の若年層では、比較的早い時期から悪玉菌が活発な腸内環境であり、長期間コリバクチン毒素にさらされることにより、大腸がん発症リスクが高まっているといえるのです。若いうちから、善玉菌が元気で、健康な腸内環境を維持することの重要さが証明されたことになります。

大腸には痛みを感じる神経組織がないため、便通異常や血便などの症状が確認された時には大腸がんはかなり進行していることが多いようです。中期以上の大腸がんになると、人工肛門の設置や抗がん剤治療に伴う副作用などで日常生活に多くの不便や苦しみを伴います。また、大腸がんは肺や肝臓への転移が多く、さらに重篤な状態を引き起こすことが少なくありません。

年齢に関係なく、善玉菌が元気で、健康的な腸内環境を維持し、健康で長生きできるように気をつけましょう。

参考文献

1) Sung H, Siegel RL, et al:Colorectal cancer incidence trends in younger versus older adults: an analysis of population-based cancer registry data. Lancet Oncol. 26, 51-63 (2025)
2) Meng, Y., Tan, Z., Zhen, J., et al:Global, regional, and national burden of early-onset colorectal cancer from 1990 to 2021: a systematic analysis based on the global burden of disease study 2021. BMC Med 23, 34 (2025).
3) Siegel RL, Wagle NS, et al:Colorectal cancer statistics, 2023. CA Cancer J Clin. 2023 May-Jun;73(3):233-254.
4) Ueno A, Yokota M, et al:Colorectal cancer in adolescent and young adults: epidemiology in Japan and narrative review. J Gastrointest Oncol. 14, 1856-1868 (2023).
5) 日本人がん患者さんの5割に特徴的な腸内細菌による発がん要因を発見 : 国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2025/0521/index.html
この記事の監修者
納豆博士|小笠原 和也 そのもの株式会社学術顧問・九州大学大学院 農学研究院 特任准教授

小笠原 和也

そのもの株式会社学術顧問/元九州大学大学院 農学研究院 特任准教授

熊本大学大学院医学教育部卒。 ナットウキナーゼをはじめとする機能性⾷品原料の研究開発、 39年間にわたる納⾖菌を主とする微⽣物学・醗酵学・酵素学の研究開発の経験をもとに幅広く活躍中。

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