




食物繊維は腸の調子を整えるだけではなく、心身の健康にも関与する重要な栄養成分であることがわかってきました。
少し前まで、食物繊維は炭水化物の一部であり、炭水化物から糖質を除いた栄養成分としてあまり重要視はされていませんでした。その後の研究により、短鎖脂肪酸の基となり腸内細菌や腸内環境の維持に欠かせない成分であることに加え、便通異常、肥満、血糖値上昇抑制(血糖コントロール)、炎症性腸疾患、消化器癌、腎臓病、心血管疾患、皮ふ炎症、脳の認知機能低下などの疾病とも関連することがわかってきました
そして、日本のみならず世界的に大人から子供まで不足している栄養素であり、健康長寿の観点から重要視されています。
食物繊維の機能性がわかってくるに伴い、その分類にも変化が生じてきました。
従来は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に分けられていました。水溶性食物繊維は水に溶ける成分で、主に腸内細菌のエサとなるもの。不溶性食物繊維は水に溶けない成分で、主に便のかさ増しや腸のぜん動運動を促すものとされていました。しかし、機能性がわかってくるに従い、それだけでは分類ができなくなってきました。
そこで、近年では発酵性に基づく分類へと移行してきました。発酵性とは、腸内細菌による分解・利用を意味します。つまり、どれだけ腸内細菌のエサになりやすいかによる分類です。
発酵分解率(腸内細菌による分解率)によって、下記の3つに分類されます。
1)高発酵性 : 発酵分解率 75 % 以上
2)中発酵性 : 発酵分解率 25 % 以上、75 % 未満
3)低発酵性または難発酵性 : 発酵分解率 25 % 未満
また海外では、AOAC.2011.25法により下記のように分類されています。
文部科学省が発行している「日本食品標準成分表」の、2015年版(七訂)において食物繊維は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維、この合計の食物繊維総量の 3項目が明記されていました。
2020年版(八訂)では、この表記も継承されていますが、主要な穀物類などについては、AOAC.2011.25法による、低分子量水溶性食物繊維、高分子量水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、これらの合計である食物繊維総量、加えて難消化性でんぷんの 5項目が併記されるようになりました。
AOACとは、食品・医薬品等の分析にかかわる情報交換や分析法検証のために設立されたアメリカの団体で、そこで公的に認められた方法がAOAC法です。アメリカでは、FDAのBAM法と同等と認められ、公的な検査法として使用されています。

以下、高発酵性、中発酵性、難発酵性食物繊維と表記し、その機能性を説明します。
「高、中、低(難)」と表されると、「高」の方が優れているように感じられるかもしれません。事実、75 % 以上が利用され、高い発酵率を示します。しかしながら、それぞれに役割があり、重要な働きをします。
発酵率が高いということは、発酵速度(利用速度)が高いことを意味します。つまり、大腸の前半部で発酵(利用)されてしまいます。同様に、中発酵性食物繊維は大腸の中間部分で発酵(利用)され、難発酵性食物繊維は大腸の後半部で発酵(利用)されるか、利用されず便の主体となり排泄されます。もちろん、高発酵性食物繊維と中発酵性食物繊維の一部も便を形成する一部となります。
このように、発酵率の違いは大腸のどの部分まで届くかに影響します。つまり、大腸内の腸内細菌にまんべんなくエサを供給するためには全ての発酵性食物繊維が必要になり、優劣を示すものではないということになります。
これらのことは、スタンフォード大学のソネンバーグ博士が、MACsコンセプトとして提唱しています。MACs は、Microbiota-accessible Carbohydrates の略となり、「腸内細菌に届く炭水化物」という概念になります。
同様に、ソネンバーグ博士は、ローカーボダイエット(低炭水化物ダイエット)は腸の奥まで炭水化物を届けられず、腸内細菌叢の乱れを引き起こす弊害があると警告しています。むやみに炭水化物を制限せず、必要な量を摂ることを推奨しています。
私も、健康的なダイエットは、炭水化物の摂取制限ではなく、摂取時間の調整によって成されると考えています。
そしてもう一つ、発酵性の違いはエネルギー換算係数にも違いが出てきます。高発酵性食物繊維は 2 kcal/g 、中発酵性食物繊維は 1 kcal/g 、難発酵性食物繊維は 0 kcal/g として計算されます。
各発酵性食物繊維の代表的な成分・食材は次の通りです。
水溶性大豆食物繊維(大豆オリゴ糖)、小麦(アラビノキシラン)、大麦、オーツ麦(β-グルカン)、ペクチン、イヌリン、フラクトオリゴ糖
難消化性デキストリン、湿熱処理でんぷん(難消化性でんぷん)*、グァーガム*、アラビアガム、サイリウム種皮*、低分子アルギン酸ナトリウム*、セルロース*
寒天、ポリデキストロース、キサンタンガム、ジェランガム、リグニン、
(注:* 印は、令和2年4月に消費者庁による「難消化性糖質および食物繊維のエネルギー換算係数の見直し等に関する調査・検証事業報告書」により、1 kcal/g と変更されたもの)
腸内細菌も数だけでなく、多様性(種類の多さ)が大事であると考えられています。食物繊維が豊富な植物性食品や発酵食品を、バランスよく、適量を摂り続けることが健康への近道なのかもしれません。
参考文献
1) 日本食品標準成分表 2020年版(八訂) : 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html
2) 日本食品標準成分表 2015年版(七訂) : 文部科学省
3) 青江誠一郎,発酵性食物繊維の最新研究からわかってきたこと,AIFNオープンカレッジ「最新研究で知る腸内革命の今」講演資料
4) 食物繊維の働きと1日の摂取量 健康長寿ネット : 公益財団法人長寿科学振興財団
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/shokumotsu-seni.html
5) 天江新太郎:経腸栄養における食物繊維の役割について,日重障誌,43 (1), 63-69, (2018)
6) 難消化性糖質および食物繊維のエネルギー換算係数の見直し等に関する調査・検証事業報告書 : 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/research/2019/pdf/food_labeling_cms206_200424_02-2.pdf

小笠原 和也
そのもの株式会社学術顧問/元九州大学大学院 農学研究院 特任准教授
熊本大学大学院医学教育部卒。 ナットウキナーゼをはじめとする機能性⾷品原料の研究開発、 39年間にわたる納⾖菌を主とする微⽣物学・醗酵学・酵素学の研究開発の経験をもとに幅広く活躍中。
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