

過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome : IBS)という病気をご存じでしょうか?
過敏性腸症候群は、腹痛とともに下痢や便秘などの便通異常が慢性的に生じる病気です。また、その他の症状として、腹部膨満、ガス溜り、便に粘液が混じる状態、排便後の残便感、吐き気、頭痛、疲労、抑うつ、不安、筋肉痛、睡眠障害、集中力の低下などを伴うこともあります。
通勤時や緊張・ストレスを伴う場面で発症することが多いと報告されています。仕事や日常生活に支障をきたし、生活の質(QOL)を低下させ、プレゼンティーイズムを招く原因にもなります。
若年層や女性に多く発症する病気で、推定患者数は日本人の 10 ~ 20 % にもなるといわれています。
過敏性腸症候群か否かは、国際的な診断基準である、ローマⅣ(Rome IV)により診断されます。
診断基準は、次の 1 ~ 2 項目以上を伴う繰り返す腹痛が、最近の 3ヶ月において、平均少なくとも週に 1回以上認められる場合です。
1) 排便と関連する
2) 排便の頻度の変化と関係する
3) 便の形状の変化と関係する
また、便の状態により、
① 便秘型
② 下痢型
③ 混合型(便秘と下痢を交互に繰り返す)
④ 分類不能型
に分類されます。
上記の症状がみられた場合、病院で診察を受け、大腸ポリープや大腸癌などの大腸腫瘍性病変、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患、甲状腺機能異常、膵臓疾患などが認められない場合に、過敏性腸症候群と診断が確定します。
つまり、過敏性腸症候群には、腹痛や便通異常などの症状があるにもかかわらず、明らかな病変や腸の構造的異常が認められないのです。
そのため、明確な原因は不明であり、ストレスや不安などの心理的要因や自律神経の失調、生活リズム(体内時計)の不調などが関与するといわれています。また、下剤などの薬の服用後や、感染性の胃腸炎の後に発症するケースもあり、免疫異常やホルモンが関与しているともいわれています。
一般社団法人 日本大腸肛門病学会では、過敏性腸症候群の治療には 5本の柱があるとしています。
1.病態を理解すること。なぜ今の症状が出ているかを理解することが治療の第一歩。
2.生活の改善。規則正しい生活が排便のリズムを作る。
3.食事による治療。便秘型の場合には、食物線維の多い食品の摂取を勧め、下痢型の場合は、消化のよいもの、油っぽくないものを勧める。
4.薬による治療。主となる症状に応じて効果が期待できる薬を選択。
5.心理療法。
前述のように、明確な原因が不明であり、明らかな病変や構造的異常が認められないため、投薬治療の優先度が低くなっています。むしろ、生活習慣や食事による治療が上位となっています。
そして、最も期待度が高いのがプロバイオティクス。次いで腸内環境を整える食物繊維(プレバイオティクス)などであるとされています。
ただし、欧米では FODMAP を避けた、低 FODMAP 食が症状を抑えると報告されています。
FODMAP とは、
< F > 発酵性食物繊維(Fermentable)
< O > オリゴ糖(Oligosaccharides)
< D > 二糖類(Disaccharides)
< M > 単糖類(Monosaccharides)
< A > (And)
< P > 糖アルコール(Polyols)
の頭文字をとったものです。
本来、善玉菌のエサとなりやすい食物繊維ですが、摂り過ぎると過敏性腸症候群を引き起こす、つまり、逆効果になると考えられています。適切な摂取量が重要ということです。
また、プロバイオティクスに関しても、単一菌種よりも複数菌種の混合プロバイオティクスの方が改善効果があるとの報告もされており、腸内細菌叢の多様性を高めることが改善効果をもたらした可能性が示されています。
つまり、プロバイオティクスの代表である乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌などを単独で摂るより、複数種類を摂り、増やすことが大切となります。
ただし、納豆菌はやや異なります。納豆菌は、その他の善玉菌を増やし、腸内で活躍できるようサポートをするのが主な役割です。
江北町健康プロジェクトのヒト試験により、そのもの納豆菌は、ビフィズス菌、ブラウティア菌、プロピオン酸産生菌など、複数の善玉菌に寄与することがわかっています。
プロバイオティクス製品として、「そのもの納豆」を積極的に摂取し、腸内細菌の多様性を高め、健康な日々を送って頂けることを期待しています。
参考文献
1) 過敏性腸症候群について : 一般社団法人 日本大腸肛門病学会
https://www.coloproctology.gr.jp/modules/citizen/index.php?content_id=5
2) 過敏性腸症候群 : MSD マニュアル 家庭版
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/03-%E6%B6%88%E5%8C%96%E5%99%A8%E7%B3%BB%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E9%81%8E%E6%95%8F%E6%80%A7%E8%85%B8%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4-ibs/%E9%81%8E%E6%95%8F%E6%80%A7%E8%85%B8%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4-ibs
3) 過敏性腸症候群 : メディカルノート
https://medicalnote.jp/diseases/%E9%81%8E%E6%95%8F%E6%80%A7%E8%85%B8%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
4) ストレスによる腹痛、下痢や便秘を抑えるために――過敏性腸症候群の症状と治療: メディカルノート
https://medicalnote.jp/diseases/%E9%81%8E%E6%95%8F%E6%80%A7%E8%85%B8%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4/contents/231024-001-US
5) 過敏性腸症候群(IBS): オリンパス おなかの健康ドットコム
https://www.onaka-kenko.com/various-illnesses/large-intestine/large-intestine_06.html
6) 便秘と下痢を繰り返す…もしかして「過敏性腸症候群」!? : 漢方ビュー通信,株式会社ツムラ
https://www.kampo-view.com/kvnews/article/1251
7) 過敏性腸症候群(IBS)と腸内細菌叢の関係 : シンバイオシス・ソリューションズ株式会社
https://symgram.symbiosis-solutions.co.jp/column/0040
8) 柴田重信 : 時間栄養学,化学と生物, 50 (9), 641-646 (2012)
9) K. Kono, Y. Murakami, et al: Fluctuations in Intestinal Microbiota Following Ingestion of Natto Powder Containing Bacillus subtilis var. natto SONOMONO Spores: Considerations Using a Large-Scale Intestinal Microflora Database. Nutrients 2022, 14, 3839. https://doi.org/10.3390/nu14183839
小笠原 和也
そのもの株式会社学術顧問/元九州大学大学院 農学研究院 特任准教授
熊本大学大学院医学教育部卒。 ナットウキナーゼをはじめとする機能性⾷品原料の研究開発、 35年間にわたる納⾖菌を主とする微⽣物学・醗酵学・酵素学の研究開発の経験をもとに幅広く活躍中。
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